「ビクトリアはカナダでいちばん温暖」——移住や長期滞在を検討していると、必ず目にする表現です。

しかし、それは本当なのでしょうか。誰が言っているのでしょうか。

この記事では、カナダ環境省(Environment and Climate Change Canada)の気候平年値をもとに、ビクトリアの気候を数字で検証します。月別の気温・降水量・降雪量、主要都市との比較、そして「カナダ一温暖」という表現がどこまで正確なのかを、都合の悪い部分も含めて正直に書きます。

私自身、23年間で15回以上この街を訪れ、夏も冬も過ごしてきました。その体感と統計が一致した部分ずれた部分も、あわせてお伝えします。

結論:「都市としては」最も温暖。ただし条件がつきます

先に結論を書きます。

カナダの主要都市の中では、ビクトリアが最も温暖です。これは数値で裏付けられます。 1月の平均気温はビクトリア市街地で5.8度。オタワ(マイナス10.0度)との差は15.8度にもなります。

ただし、正確を期すために2点を補足しなければなりません。

1つ目。「カナダで最も温暖な都市」という表現に、公的機関の裏付けは見つかりませんでした。 カナダ環境省、カナダ政府、ビクトリア市の公式サイトを調べましたが、いずれも「カナダで最も温暖」と明言していません。この表現は主に観光・移住系メディアで使われているものです。

2つ目。「カナダで最も温暖な場所」はビクトリアではありません。 同じバンクーバー島の西岸にあるエステバンポイント(Estevan Point)の1月平均気温は5.9度で、ビクトリア市街地の5.8度をわずかに上回ります。

つまり正確には、「カナダの主要都市の中では最も温暖」という限定つきの表現になります。それでも十分に驚くべき数字ではあるのですが。

ビクトリアの気候は「一つの数字」で語れません

ここが、この記事でもっともお伝えしたい点です。

ビクトリアには、カナダ環境省の平年値を持つ観測地点が3つあります。そして、その数値が大きく異なります

観測地点標高年平均気温年降水量
ゴンザレス(市街地・海際の岬)69.5m10.7度674.9mm
ビクトリア大学周辺60.1m11.0度661.2mm
ビクトリア国際空港(郊外・シドニー)19.5m10.3度901.2mm

※カナダ環境省 1991〜2020年平年値

年降水量が、市街地と空港で226mm(約33%)も違います。

さらに決定的なのが、霜が降りる日数です。

観測地点最低気温が0度以下になる日数(年間)
ゴンザレス(市街地)10.4日
ビクトリア国際空港45.0日

4.3倍の差です。市街地は年に10日しか氷点下になりませんが、空港周辺は45日あります。

これは実用上とても重要です。ネット上で「ビクトリアの降水量は900mm」と書かれていたら、それは空港のデータです。市街地に住むなら675mm。「一年中緑」「通年ガーデニングができる」という話も、市街地の数値に基づくものと考えられます。

どの地点の数字なのかを確認せずに気候を語ると、必ず誤解が生まれます。 以下、本記事では特記しない限り市街地(ゴンザレス)の数値を使います。

マラハットからビクトリア空港の方角を見た風景

数字に表れない気象もあります

気温・降水量・降雪量は平年値として整理されていますが、沿岸部の天候は数値表に載らない形で旅程に影響することがあります。私自身、そんな経験をしました。

穏やかな気候の土地でも、天候による遅延は起こります。帰国便の翌日に重要な予定を入れない——これは経験から得た教訓です。

主要都市との比較:1月の気温

カナダ環境省の1991〜2020年平年値で、主要都市の1月を並べます。

都市1月平均気温1月平均最低気温年平均気温年降水量
ビクトリア(市街地)5.8度3.8度10.7度674.9mm
ビクトリア(空港)4.6度1.6度10.3度901.2mm
バンクーバー(空港)4.1度1.4度10.5度1,159.5mm
トロント−5.0度−8.9度8.6度806.8mm
カルガリー−7.6度−13.5度4.5度445.4mm
モントリオール−9.2度−13.5度7.0度1,040.9mm
オタワ−10.0度−14.3度6.5度929.8mm

ビクトリアだけがプラスの気温を保っています。しかも1月の平均最低気温が3.8度で、これは「夜でも氷点下にならないのが普通」という意味です。

なお注目すべきは、バンクーバーとの降水量の差です。気温はほぼ同じなのに、降水量はバンクーバーがビクトリア市街地の1.7倍あります。この理由は後述します。

月別の気温と降水量

市街地(ゴンザレス)の1991〜2020年平年値です。

平均最高平均気温平均最低降水量
1月7.8度5.8度3.8度110.6mm
2月8.6度6.1度3.6度60.7mm
3月10.7度7.7度4.6度62.4mm
4月13.5度10.0度6.4度36.2mm
5月16.5度12.6度8.7度27.5mm
6月18.7度14.6度10.5度18.8mm
7月20.6度16.3度11.9度13.0mm
8月20.7度16.4度12.1度16.4mm
9月18.9度15.0度11.0度27.8mm
10月13.9度11.1度8.2度85.4mm
11月9.9度7.7度5.4度128.7mm
12月7.5度5.5度3.6度87.2mm
14.0度10.7度7.5度674.9mm

この表から2つのことが読み取れます。

気温の年較差が小さい。 もっとも寒い12月(5.5度)ともっとも暖かい8月(16.4度)の差は、わずか10.9度です。東京の年較差が20度以上あることを考えると、極端に穏やかです。

降水量が季節で極端に偏る。 7月の13.0mmに対して11月は128.7mm。約10倍の差があります。これがビクトリアの気候の最大の特徴です。

冬はどのくらい寒いのか

1月の平均気温は5.8度、平均最低気温は3.8度。平年では夜でも氷点下にならないのが普通です。氷点下になる日は年間10.4日(市街地)しかありません。

これは日本で言えば、東京より少し涼しい程度の冬です。「カナダの冬」と聞いて思い浮かべる、マイナス20度の世界とはまったく違います。

雪はどのくらい降るのか

年間の平均降雪量は、市街地で26.3cm、空港で38.6cmです。

ただし「降る」と「積もる」は別の話です。空港の1991〜2020年平年値で、日数を見てみます。

指標年間の日数
降雪が0.2cm以上ある日7.4日
降雪が5cm以上ある日2.7日
降雪が10cm以上ある日1.2日
積雪が10cm以上ある日2.7日

そして重要なのが、積雪深の中央値がすべての月で0cmであることです。つまり平年の冬は「雪が積もっていない状態が普通」ということになります。

ビーコンヒルパークの雪化粧

なお市街地の降雪量は空港の約6割です(同一期間の比較)。より街の中心に住めば、雪はさらに少なくなります。

ただし例外もあります。 1996年12月、ビクトリアは記録的な大雪に襲われました。カナダ環境省の記録では、空港で観測された12月の日降雪量の歴代最大は64.5cm、最大積雪深は67cmです。報道によれば、この大雪は1996年12月下旬に発生し、被害額は約2億カナダドルに達しました。穏やかな土地にも、稀に極端な年があるということです。

雨は本当に少ないのか

ここは丁寧に見る必要があります。答えは「季節によってまったく違う」です。

夏は、極端に乾いています。 7月の降水量は13.0mm。これは日本の感覚では「ほとんど降らない」と言ってよい水準です。

一方、冬はしっかり降ります。 11月は128.7mm、1月は110.6mm。年間降水量の6割以上が11月〜2月の4か月に集中するといわれています。

つまり「ビクトリアは雨が少ない」という表現は、夏については正しく、冬については当てはまりません

夏は涼しい:体感と数値のずれ

ここが、この記事でもっとも興味深い部分かもしれません。

まず数値を見ます。 7月の平均最高気温は市街地で20.6度、空港で22.7度、大学周辺で23.7度。平均最低気温はいずれも11.7〜11.9度です。

そして驚くべき数字がこちらです。

指標市街地空港
最高気温が30度を超える日(年間)1.2日2.1日
最低気温が20度を超える日(年間)0.0日0.0日

熱帯夜が、平年値上ゼロです。 日本の夏に慣れた身にはにわかに信じがたい数字です。

さて、この体感と統計を突き合わせると、2つのずれが見えてきます。これは誤りではなく、体感と平年値の性質の違いだと考えられます。

「日中25度前後」について。 平年値では市街地20.6度、大学周辺でも23.7度で、25度には届きません。ただし平年値は31日間の平均です。晴れた日の実際の最高気温はこれを上回りますし、湿度が低く日射が強いため、同じ気温でも日本より暖かく感じられます。体感が数値を上回るのは自然なことです。

「晩は17度まで下がる」について。 こちらは逆に、実際にはもっと下がります。7月の平均最低気温は11.9度です。17度というのは「夕方から宵の口」の気温で、明け方の最低気温はさらに5度ほど低いと考えられます。

つまり「夏でも長袖が必要」という結論は、数値がむしろ強く裏付けています。日中との差が大きいので、上に羽織るものは必須と考えてください。

なぜこんなに乾いているのか:オリンピック山脈の雨陰

ビクトリアの夏の乾燥は、地形によるものです。

オリンピック山脈は夏でも雪が積もっている

太平洋から吹く湿った西風は、ワシントン州のオリンピック山脈にぶつかって上昇し、山の手前で雨を落とします。山を越えて下ってくる空気は乾燥し、雲ができにくくなります。この現象を雨陰(レインシャドウ)と呼びます。ビクトリアはちょうどこの乾燥帯に位置しています。

効果の大きさは、降水量の比較で一目瞭然です。

地点年降水量ビクトリア市街地との比
ビクトリア(市街地)674.9mm1.00
ビクトリア(空港)901.2mm1.34
バンクーバー(空港)1,159.5mm1.72
エステバンポイント(島の西岸)3,110.5mm4.61

同じバンクーバー島でも、西岸は4.6倍の雨が降ります。山の陰に入っているかどうかで、これだけ変わるのです。

気候区分は「地中海性気候」に分類されます

カナダ環境省の平年値をケッペンの気候区分の基準に当てはめると、ビクトリアはCsb(温暖夏季地中海性気候)に分類されます。

判定の根拠を確認しておきます。

  • 最寒月の平均気温が−3〜18度の範囲内(12月=5.5度)→ C
  • 夏の最少雨月が30mm未満(7月=13.0mm)→ s
  • 夏の最少雨月が冬の最多雨月の3分の1未満(13.0mm < 42.9mm)→ s
  • 最暖月が22度未満(8月=16.4度)→ b

「地中海性気候に近い」と言われる根拠は、7月の降水量が最多月の10分の1程度しかない極端な夏季乾燥にあります。カナダでこの気候区分に該当する地域は、ごく限られています。

一年中緑を保てる理由

ビクトリアが「ガーデン・シティ」と呼ばれる背景には、気候の裏付けがあります。

ハトリー城の色鮮やかな花

植物の耐寒ゾーンは9a。 カナダ天然資源省の植物耐寒ゾーンマップによれば、2014年版でビクトリアは9aに分類された唯一の地域とされ、9aはカナダ全土のわずか0.01%しか占めません。バンクーバー島南端とBC州本土南西端のみです。

無霜期間は213日(空港、1991〜2020年平年値)。春の最終降霜は平均4月4日、秋の初霜は平均11月4日です。

ただしここでも観測地点の差が効いてきます。市街地の無霜期間のデータはカナダ環境省に存在しませんが、氷点下になる日数が空港の45.0日に対して市街地は10.4日しかないことを考えると、市街地の実際の無霜期間は213日よりかなり長いと推定されます。「通年ガーデニングができる」という現地の感覚は、おそらくこの市街地の条件から来ています。

なお日照時間は、市街地で年間2,193時間という記録があります。ただしこれは1971〜2000年の平年値で、気温・降水量(1991〜2020年)とは期間が異なります。カナダ環境省は1991〜2020年の平年値から日照の項目を廃止しているため、現行データでの全国比較はできません。「カナダで最も日照が多い」といった表現は、裏付けが取れませんでした。

移住を考えるなら知っておきたい気候リスク

穏やかな気候にも、備えるべきリスクがあります。移住を検討されるなら、ここは必ず押さえてください。

2021年6月の記録的猛暑(ヒートドーム)

2021年6月28日、ビクトリア市街地で39.8度が記録されました。1874年からの観測史上最高で、それまでの記録(2007年の36.0度)を3.8度も更新しました。

BC州全体では、リットン(Lytton)で6月29日に49.6度というカナダ観測史上最高気温が記録され、その翌日、町は山火事でほぼ消失しました。BC州検死局への報告では、この期間に600人を超える熱関連死が確認されています。

この土地の恐ろしさは、平年値が酷暑をまったく想定していない点にあります。 空港の平年値では、体感温度(Humidex)が40を超える日は年間0.0日です。エアコンのない住宅が多く、それが被害を大きくしました。

なお39.8度という記録は、2021年が1991〜2020年の平年値の対象期間外であるため、平年値の表には現れません

山火事の煙による大気質の悪化

近年、BC州では山火事の煙による大気質の悪化が問題になっています。BC州は大気質警報(Air Quality Warnings)の制度を運用しており、ビクトリア地域も対象です。2024年7月にはソーク(Sooke)の山火事の煙で、グレーター・ビクトリアに特別大気質報告が出されました。

ただしビクトリアの年別の「煙日数」を示す公的な統計は確認できませんでした。警報が実際に発出されている事実までは確認できています。

冬の暴風雨

雨季には強い風が吹きます。空港の記録では、1月の最大瞬間風速は111km/h(1991〜2020年)。市街地のゴンザレスは岬にあるため、年間平均風速も空港(9.7km/h)より高い14.3km/hです。

2018年12月20日の暴風雨は、BC Hydro史上もっとも被害の大きい嵐となり、約756,000戸が停電しました(一部は最大10日間)。バンクーバー島とガルフ諸島では顧客の8割以上が停電しています。

穏やかな気候の代償として、冬の停電リスクは考慮しておく必要があります。

まとめ

数値で検証した結果をまとめます。

  • カナダの主要都市の中では最も温暖。 1月平均5.8度で、オタワとは15.8度の差
  • ただし「カナダ一温暖」に公的な裏付けはなく、島の西岸エステバンポイントのほうが1月はわずかに暖かい
  • 観測地点で数値が大きく違う。 年降水量は市街地675mm/空港901mm、氷点下の日数は10.4日/45.0日
  • 冬は厳しくない。 平年では夜でも氷点下にならない
  • 雪はほとんど積もらない。 積雪深の中央値は全月0cm。5cm以上の降雪は年2.7日
  • 夏は涼しい。 熱帯夜は平年値上ゼロ。30度超は年1.2日。長袖の羽織りものは必須
  • 雨は夏と冬で正反対。 7月13mm/11月129mm。年降水量の6割以上が11〜2月に集中
  • 気候区分はCsb(温暖夏季地中海性気候)。極端な夏季乾燥が根拠
  • 耐寒ゾーン9aはカナダ全土の0.01%。一年中緑を保てる理由
  • リスクとして2021年の39.8度、山火事の煙、冬の暴風雨(756,000戸停電)

「カナダ一温暖」という言葉は、厳密には限定つきです。しかし主要都市の中で唯一、冬でも夜が氷点下にならない街という事実は、それだけで十分に特別だと思います。

第二の人生をどこで過ごすか考えるとき、気候は大きな要素です。穏やかであることも、その代償としてのリスクも、両方を知ったうえで判断していただければと思います。

本記事の数値はカナダ環境省の1991〜2020年平年値(一部は1971〜2000年平年値、その旨を明記)に基づきます。データは更新されるため、最新の情報はカナダ環境省の気候平年値でご確認ください。

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